弱視
新生児の視力は明るさや暗さを区別できる程度で、成長とともに周囲の視覚的な刺激(親の顔の認識・手で触れたもので遊ぶなど)によって、視力が発達していきます。このように子どもの視覚が発達する時期を「感受性期」と呼び、生後1カ月から始まり18カ月頃にピークを迎えます。10歳頃にはほぼ成人と同等の視力を獲得し、その後の発達速度は緩やかです。
新生児~5歳児までの視力
年齢 | 視力 |
---|---|
新生児 | 0.01~0.02 |
生後3か月 | 0.02~0.03 |
生後6か月 | 0.04~0.08 |
1歳 | 0.2~0.3 |
2歳 | 0.5~0.6 |
3~5歳 | 0.8~1.0 |
弱視は、視機能が発達する5歳ごろまでに片目または両目の視力が正常に発達せずに停滞してしまう状態を指します。この時期に目から刺激を受け取れないため、色の識別や両眼を使ってものを捉える能力の発達に遅れが生じたり、成長が停止したりしてしまう可能性があります。10歳頃から成人の時期に発見して治療を行っても視力改善が困難になってしまうため、日常生活や学校生活などの生活上の問題を引き起こすことがあります。そのため、早期発見と治療が非常に重要です。
原因
- 黒目の中心部分の濁り
- 遠視や乱視などの屈折異常
- 左右の目の視力差
- 眼瞼下垂(まぶたが垂れ下がってしまう疾患)
- 斜視
新生児の目は遠視で成長に伴ってピントが合うようになっていきますが、視力を発達させる時期に強い屈折異常があると、網膜に焦点が合わず、外界の視覚的な刺激を十分に得られなくなります。これが原因で、弱視になることがあります。
小さな子どもは、自分の視力に問題があるかどうかを自覚することや、大人に正確に伝えることが難しいため、3歳児検診での視力検査が重要です。早期発見と適切な治療により、弱視を改善できます。
治療
眼鏡
眼鏡を装用し外界の視覚的な刺激を受け、視力の発達を促します。一旦視力が発達すれば、弱視の状態に戻ることはほとんどありません。
子どもの屈折異常は成長に伴い変化するため、定期的に検査を受けて眼鏡の度数を調整することが必要です。
眼鏡を選ぶ際にはフレームのサイズや素材、かけ心地の快適さなどを考慮しましょう。
また、9歳未満の子どもの弱視治療に用いる眼鏡は、保険が適用されることがあります。
遮閉訓練
両目の視力差が大きい場合は眼鏡を作るだけでなく、同時に遮閉訓練を行います。
遮閉訓練は視力が良い目にアイパッチを装着し、弱視のある目でものを見る訓練をする方法です。アイパッチを嫌がる子どもには、好きなシールを貼ったり、好きなキャラクターを描いたりするなど工夫することがお勧めです。
近視
人間の目はカメラと似た仕組みを持っており、水晶体がレンズ、網膜がフィルムのような役割を担っています。
水晶体はピントを調整するために厚みを変えますが、過剰なピント調節によって近視化が起こる恐れがあります。一時的な近視化は点眼治療や生活習慣の見直しで改善されることがあります。しかし、症状が長期間続くと眼軸長が伸びてしまい、伸びた眼軸長は元に戻らず、遠くを見た時の裸眼視力も元に戻りません。
眼軸長が伸びてピントが網膜より前にきてしまう軸性近視が生じます。
世界的に近視の発症率は年々高くなっており、中学卒業生の80〜90%が近視であると言われています。近視は放置すると将来、網膜剥離や緑内障、加齢黄斑変性などのリスクが上昇するため、放置せず早期に対処することが重要です。
近視の進行には、遺伝的要因と環境的要因があります。両親ともに近視の場合、子どもは7〜8倍近視の発症リスクが高いと言われています。
一方、環境的要因には、外出機会の減少やゲーム、スマートフォン、パソコン、読書、テレビなどを長時間行い続けることなどです。これらの行動が近視を進行させます。
近視の進行を抑制するためには、生活習慣や環境の改善が重要ですが、最近では、オルソケラトロジーや低濃度アトロピン点眼(マイオピン点眼薬)などの近視抑制治療法も活用されています。
オルソケラトロジー
オルソケラトロジーは、通常のコンタクトレンズとは異なり、就寝中に装用して角膜の形状を矯正することで、日中は裸眼で過ごすことができます。この技術は30年以上前からアメリカで研究、処方が行われ、2009年に日本の厚生労働省でも承認されました。オルソケラトロジーは現在、アメリカやヨーロッパ、アジアなど世界中の多くの国々で使用されています。
最近の研究により、オルソケラトロジーが近視の進行抑制にも効果があることが分かってきました。これにより、子どもの視力抑制の新しい治療法として注目されています。
オルソケラトロジーの仕組み
STEP1就寝前
レンズを洗浄して、寝る15分程度前に装着します。
STEP2就寝
レンズを装着したまま6〜8時間就寝することで、角膜表面の形を変えて近視を矯正します。
STEP3起床
起床したら、レンズを外して洗浄します。
STEP4日中
視力が矯正され、日中の活動に十分な視力を維持します。
治療の流れ
STEP1初診のご予約
初診の場合はご予約をお願いいたします。
STEP2適応検査
検査、診察を行い、治療について説明をします。レンズの安定性を確認するためテストレンズを装用してもらい、目の状態にあったレンズを選択します。
STEP3レンズの受取り・装脱練習
レンズの取り扱い説明とレンズの装脱練習を行います。
STEP4一晩レンズを装用し、翌日に受診
一晩装用してもらい翌日に受診して頂きます。目の状態に問題ないことが確認できたら、連続装用を開始して頂きます。
STEP5定期検査
治療開始1週間後と2週間後に検査を行い、その後は2〜3ヶ月毎に定期検査を行います。
費用
オルソケラトロジーは保険の適用外のため、自己負担による診療となります。
適応検査 | 8,800円 |
---|---|
装用練習 | 2,200円 |
初年度 | 170,500円 |
次年度 | 33,000円 |
レンズ代 | 33,000円 |
マイオピン
マイオピンは子どもの近視の進行を軽減するための目薬です。主成分のアトロピンには眼軸が伸びるのを抑える効果があるとされています。1960年代は1%のアトロピン点眼薬が近視治療に使用されていましたが、眩しさや目の痛み、アレルギー症状などの副作用が起こることがありました。マイオピンは、0.01%または0.025%の低濃度のアトロピンを使用しているため、近視進行を抑制する効果を維持しながら、副作用がほとんどないことが確認されています。
マイオピン治療
この治療は両親が近視である遺伝要因や、近距離での作業が多い環境要因など、将来的に近視が進行する可能性のある子どもに勧められています。マイオピン治療は毎日1回の点眼だけで、大きな負担やストレスがかからないことがメリットです。
マイオピン治療の特徴
- 副作用がほとんどないため安全
- 近見視力の低下や日中のまぶしさにほぼ影響を及ぼさない
- 2年間の使用で、近視の進行を平均60%軽減させる
- 毎日就寝前に1滴点眼するだけ
使用方法
毎晩寝る前に、目薬を1滴ずつ点眼する治療を継続することを推奨しています。初めは濃度0.01%から始めて頂き、一定期間後に近視進行の抑制効果が不十分である場合や、治療開始時に高度近視や遺伝的な要因が強く疑われる場合は、より強力な抑制効果がある0.025%を使用することを提案しています。ただし、近視の抑制効果は個人差があり、完全に近視の進行が止まるわけではありません。
費用
マイオピンは医療保険の適用外であり、自己負担による診療となります。
マイオピン® 低濃度アトロピン(0.01%)
初回 | 7,100円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 3,800円(1本) |
---|---|---|
1週間~1か月後 | 10,900円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 7,600円(2本) |
2か月後 | 14,700円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 11,400円(3本) |
3か月ごと | 14,700円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 11,400円(3本) |
1年後 | 16,350円 | 診察・検査 4,950円 点眼薬 11,400円(3本) |
マイオピン® 低濃度アトロピン(0.025%)
初回 | 7,500円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 4,200円(1本) |
---|---|---|
1週間~1か月後 | 11,700円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 8,400円(2本) |
2か月後 | 15,900円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 12,600円(3本) |
3か月ごと | 15,900円 | 診察・検査 3,300円 点眼薬 12,600円(3本) |
1年後 | 17,550円 | 診察・検査 4,950円 点眼薬 12,600円(3本) |
斜視
斜視は片目の視線にズレが生じる状態です。斜視を放置すると、両目で見た情報を脳で一つにする機能である両眼視の発達が阻害され、立体的にものを見る能力が育たなくなるため、早期治療が重要です。
また、斜視の子どもには弱視を併発している場合があり、更に頭を傾けてしまう頭位異常が起こることもあるため、放置せずに治療する必要があります。
成人の場合は、生活習慣病や、頭部外傷、頭蓋内疾患などが原因で斜視が起こり、一つのものが二重に見える複視が発生することもあります。
治療
子どもの場合、眼鏡での屈折異常の治療や視能訓練を行うことで改善することがあります。一方、成人の場合はプリズムレンズを用いた眼鏡により複視や、眼精疲労を軽減させます。ただし、眼鏡や視能訓練による改善が難しい場合には、手術が必要となる場合があります。